1. 考察
柿木教授は共同論文の中で、「結論として、本研究による研究結果について言えることは、被験者であるヨガ師が瞑想中に何ら痛みを感じなかったことを当該研究結果が強く示唆していることである。私たちは現在、ヨガ瞑想技術に係る広範囲に及ぶ鍛錬こそが、これほど強烈な心理的変化をもたらしているという仮説を立てている。視床部における変化は、この特異な効果に起因するのかもしれないが、視床部または大脳皮質部(特に帯状回部)より下位の調整作用もまた視床部の活動を変化させているのかもしれない。なぜ心理状況の変化が痛みの知覚に影響を及ぼすのかについて未だ不明であることを考慮しても、当該ヨガ師が瞑想中その脳内で何が起こっているのかについて結論づけることは不可能である。しかしこれは、ヒトの痛みを知覚する根本的なメカニズムを解明する上で興味深い重要な問題なのである。」と、論述している。
共同研究の直後に柿木教授は、「長年、痛覚の研究をしているが、今までこんなことは見たことがない。世の中にはこういう人もいるものだ。想像を絶するなぁ。」と話し、さらに「しかし、科学者として純粋にどうしてこんなことができるのかを知りたかった。」とも述べている。
2. まとめ
川上師がクンダリニーヨガの特別集中修法としての綜制(サムヤマ)の有想三昧の中で痛くないという強い思念と意志力で打ち消すことで、痛みが完全に脳内にとどいていない結果は、視床下部において痛みが止まっているということを意味し、強い思念と意志力が脳内において、また身体に通常では考えられない変化が起こっている。
痛みの行方については、「痛くない」という別の思念を脳そして魂に情報をおくることにより、「痛い」という情報が視床下部の位置でとまり、「痛くない」という情報が脳内に届いている状態だと考えられる。
そして、この共同研究が認められたことは、今までの常識を覆すとともに人の思念が脳そして身体に劇的な変化をもたらすことにより、痛覚意識だけではなく人間の無限の可能性があることも、科学が証明したことになる。
また、川上師の概念では、魂は解剖学的にみると人体頭部の視床下部に位置し、そこにおいて痛みがとまっていることに関してもとても興味深い結果だと言える。魂に、強い思念をとどけることは人の本能的防御機能である痛覚までも制御させ、脳の働きまでも変化させることになった。
現代科学は視覚的に確認できるもの、データで測定できるものを研究対象としてきたが、この共同研究の結果により、思念や想念、祈念、意志力など目に見えない意識を研究していかなければならないように感じた。
引用文献
『ヨガ修法学論』 川上光正 A&A 2013年
『痛みとはなにか』 柳田尚 講談社 1988年
『痛みのサイエンス』 半場道子 新潮社 2004年
癒しのA&A・スローヨガスタジオ